ブレインバンク倫理指針
2015年9月26日 日本神経病理学会・日本生物学的精神医学会
(2016年2月5日 日本病理学会微小語句修正)
Ⅰ ブレインバンクとは
I-1 ブレインバンクの意義と目的
I-2 ブレインバンクが取り扱う対象
II 本指針の基本方針
II-1 剖検を前提とすること
II-2 ブレインバンク事業と死体解剖保存法
II-3 解剖と保存・保管の場所について
II-4 生前の診療情報の収集について
III ブレインバンク倫理原則
IV 標準的なブレインバンク運営の指針
IV -1 提供を受ける際の手続
IV -1-A 原則
IV -1-B 遺族等からのインフォームド・コンセントの手続
IV -2 生前情報の取得
IV -3 摘出と保存
IV -4 死体、組織の搬送
IV -5 組織等の取扱い
IV -6 試料の供給
V ブレインバンク生前登録の手続
VI 見直し
Ⅰ ブレインバンクとは
I-1 ブレインバンクの意義と目的
ブレインバンクは、研究の推進を通じて次の世代に「希望の贈り物1 」をしたいという市民の意思を活動の基礎とする。ブレインバンクは、その意思を実現するため、提供された死後脳組織等を適切に管理し、こころと身体の健康の向上に向けた研究を促進する役割を担う。ここで扱われる対象はご遺体由来であり、ご遺族の篤志が支える点で、死者の尊厳への畏敬の念と遺族への礼意、ならびに社会通念が全てのプロセスに共通する。
I-2 ブレインバンクが取り扱う対象
ブレインバンクとは、こころと身体の健康の向上に寄与する研究を目的に、下記の対象者から対象組織および情報の提供を受け、その集積と供給を行う機関をいう。
a)対象者
神経・精神疾患の罹患者および非罹患者。
b) 対象組織 死体解剖保存法および病理解剖指針に基づく解剖によって摘出された脳全体およびその一部(左右の大脳、小脳、脳幹等)、脊髄全体およびその一部、およびそれ以外の組織(末梢神経・筋、血液、脳脊髄液、肝臓等全身臓器、皮膚等)の一部。
c) 情報
提供者の生前の健康・医療状態に関する情報。生前登録の際に本人の同意に基づいて本人、主治医等から取得する臨床情報、提供の際に遺族等の同意に基づいて遺族等、主治医、医療機関等から取得する死因を含む生前情報の両方を含む。
II 本指針の基本方針
従来、死後組織を対象とする医学研究は死体解剖保存法の「医学研究のため特に必要があるときに、遺族の承諾を得て、死体の全部又は一部を標本として保存することができる。」という規定に基づいて行われてきた。死後組織の研究使用やそのための同意の取得については、生検や手術により得られた組織とは異なる倫理的な配慮が必要で、死者の尊厳や遺族感情、社会通念に十分配慮した上での倫理的、技術的に妥当な取り扱いが必要とされる。そこで本指針は、ブレインバンク運営や死後脳組織の研究利用に関する手続きを死体解剖保存法の精神に則って行うための指針を示すことを目的として、策定された。なお、ブレインバンク事業に関する事項について、以下の点に留意するものとする。
II-1 剖検を前提とすること
病理解剖(許可自治体においては一部行政解剖を含む)は、死亡した患者へ確定診断を与えることで本人への最後の奉仕を行うと同時に、神経・精神疾患罹患者の場合、遺族・介護者への貢献を行うことが前提である。本邦ブレインバンク事業は剖検を前提とする点で、正確な神経病理診断を行うことが必須事項である。
II-2 ブレインバンク事業と死体解剖保存法
ご遺体の解剖を経てその一部を摘出し、保存する過程は、死体解剖保存法にいうところの「解剖」「保存」に該当するものとして扱い、同法の要件を遵守する必要がある。一方、標本としての「保存」以降の活動、すなわち試料としての二次的な加工、外部への試料の供給、研究者による利活用のあり方について、同法には明確な規定がない。法文上の「解剖」や「死体の一部」に関する要件を死体に由来するすべてに一義に拡張して適用することは実務上困難であり、事実、「標本が死体の僅少の部分に止まる」場合については、過去の厚生省の行政指導や病理解剖指針に示された方針においても、上記の規定の適用がないとする方針が示されてきた(昭和26年2月10日埼玉県知事あて厚生省医務局長回答・医収第77号、病理解剖指針[昭和63年厚生省健康政策局長通知・健政発第693号])。その一方、加工を経た試料も、これがご遺体に由来することに照らして、その使用については、遺族の同意を得ることはもちろん、礼意をもった取扱いをする等の社会的相当性を満たし、かつ公衆衛生上の観点から適切でかつ厳正な管理のもとにおくことが求められる。
II-3 解剖と保存・保管の場所について
広く脳の集積を行う必要のあるブレインバンクでは、自施設以外の医療機関等で死亡した患者の死体を解剖し、その一部を保存・保管する手続きとして下記のいずれかをとる。a) 死体をブレインバンクがある施設まで搬送し解剖を行う、b) 患者が死亡した医療機関等において、ブレインバンクから派遣された者が解剖を行う、c) 患者が死亡した医療機関等の解剖資格者が解剖して、摘出された対象組織をバンクに搬送する。これには、他ブレインバンクが運用する生前登録(V参照)をもとに、他の機関が死体の解剖や、その一部の保存・保管に協力する場合も含まれる。死体解剖保存法17条が規定する大学または地域医療支援病院もしくは特定機能病院に設置されるブレインバンク、および、同法第18条が規定する死体の解剖をすることができる者が運営を行うブレインバンクでない場合、死体の全部または一部の保存について、死体解剖保存法19条に定める都道府県知事の許可を得ることが義務づけられる。なお、死体解剖保存法では、解剖が行われた医療機関等における死体およびその一部の保存までの規定がある一方、これらを他機関に搬送し、ブレインバンクにおいて保管、供給することに対応した規定を備えていない。このような場合についても、解剖が実施された病院または解剖を行った解剖資格者が、ブレインバンクに対象組織の管理を委託する、または、共同で対象組織を保存・保管することが考えられる2。
II-4 生前の診療情報の収集について
生前の診療情報の取り扱いに際しては、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省告示)に従う(なお、ゲノム・遺伝情報の取り扱いは上記二省および経済産業省による「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」にも準拠する。以下、同様)。
III ブレインバンク倫理原則
ブレインバンクを運営し、またブレインバンクを利用した研究を行うにあたっては、倫理的妥当性を保持するため、つぎの原則を遵守しなければならない。
a) こころと身体の健康の向上に寄与する研究への貢献
ブレインバンクが提供を受けた組織等は、こころと身体の健康の向上に寄与する研究の発展のために提供者、遺族等から託されたものであることを認識し、研究の発展につながるよう適切に管理・利用しなければならない。
b) 任意性の確保
ブレインバンクへの登録は、ご遺族同意を踏まえた本登録を前提にしつつ、生前に候補者が示していた希望を尊重して行われなければならない。意思決定の過程において、候補者や遺族等に心理的圧力がかかることがあってはならない。
c) インフォームド・コンセント
提供を受ける際、遺族等には十分な説明を行い、内容が十分に理解されたことを確認した上で、書面により同意を得なければならない。また同意の取得後であっても下記に規定された最新の情報を公開し、上記の関係者が活動の状況を知ることができるよう配慮するべきである。
d) 礼意の保持
組織・試料・情報(以下、「組織等」と表記する。)を集積・供給、また研究に利用する際には、提供者(死者)、遺族等への礼意を保ち、死者の尊厳の保持に配慮しなければならない。研究者が試料を使用するにあたっては、医師や解剖の施行者がご遺体に相対する際に保つべき礼意と同等に十分な礼意をもって試料を取扱うことが前提となる。医師あるいは解剖資格を有する者でない研究者が試料を使用するにあたっては、事前に、ご遺体に由来する試料への礼意を保つことを担保するための講習等を、ブレインバンク側が行うことが望ましい。
e) 無償性の保持
ブレインバンクは、営利を目的として運営してはならない。組織等の提供・提供意思の登録の際、その対価として必要経費を超える財産上の利益を遺族等または候補者に供与してはならない。また、ブレインバンクの運営に携わる者または協力する者は、組織等の収集・提供に関して手数料・運営維持経費として正当な範囲を超える対価を得てはならない。
f) 個人情報等の厳格な管理
ブレインバンク生前登録者、提供者の特定につながる情報、ブレインバンク生前登録者、提供者、および遺族等が知られることを望まない情報を厳格に管理し、これらの情報が漏洩しないよう細心の注意を払わなければならない。
g) 情報公開
ブレインバンクは、その活動全般について広く社会に情報を公開する体制を整備しなければならない。ブレインバンク運営に関わる重要事項については、研究者および市民一般と情報を共有し、意見交換に努めなければならない。研究に関する情報公開の方法としては「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い、最新情報をインターネットホームページ、ニュースレター等で行う必要がある。
h) 法規等への準拠
ブレインバンクの活動においては、関連する法規(死体解剖保存法等)や国の定めた指針(病理解剖指針、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針、等)を遵守しなければならない。
IV 標準的なブレインバンク運営の指針
IV -1 提供を受ける際の手続
IV -1-A 原則
1.候補者、遺族等は、こころと身体の健康の向上に寄与するというブレインバンクの趣旨に賛同する者とする。
2.組織等の提供を受ける際には、遺族等のインフォームド・コンセントを取得すること。
3.組織等の提供を受けることを検討する際には、候補者の生前の意思を尊重すること。
4.候補者が提供しない意思を登録していた場合には、組織等の提供を受けないこと。
5.遺族等は組織等の提供に関するインフォームド・コンセントをいつでも撤回できる。撤回の意思は、遺族等がいる限り、いつでも表示することができるが、その効果は遡及しない。すなわち、研究に使用された試料を返却したり、報告された研究結果を撤回したりすることは求められない。
IV -1-B 遺族等からのインフォームド・コンセントの手続
1.遺族等に対し組織等の提供に関する説明を行う際は、死後間もない遺族等のおかれている状況に鑑み、その心情に十分配慮する。任意性の確保に配慮し、説明を受けるかどうかを含めて遺族等に拒絶する権利があること、拒絶することによって遺族等が不利益を受けないことを明確に説明すること。
2.候補者が生前に提供意思を登録していた場合(V参照)には、遺族等に対し生前登録者の意思内容について説明すること。提供しない意思が登録されていた場合には、その旨を遺族等および病院に伝え、提供がなされないことを確認する。
3.遺族等から組織等の提供に関する同意を受ける際には、下記の内容および事項について書面を用いて口頭で説明し、書面で同意を得ること
①ブレインバンクの意義と概要(連絡先を含む)
②候補者が提供意思を登録している場合は、生前登録の趣旨と生前登録者の意思内容
③組織等の提供は任意であり、提供に同意しないことで不利益な対応を受けないこと。
④同意の撤回に関する事項
・組織等の提供の同意は、研究に利用される前であればいつでも撤回できること。
・撤回の方法
・撤回の場合の組織等の取扱いに関する方針
⑤提供を受ける組織の範囲、組織等の採取および取り扱いの方法
⑥提供を受ける情報の内容と取得の方法
⑦組織等の廃棄に関する方針
⑧組織等の使用、供給および移管に関する方針
⑨予想される使用目的の例
⑩提供の無償性、組織等に係る財産的権利に関する事項
⑪供給先に関する方針(提供された組織が使われる研究は倫理審査を受け承認されたものであること、等)
⑫個人情報等の保護に関する事項
⑬組織等の解析により得られた情報の開示に関する方針(偶然に遺族の健康に関わる情報が得られた場合における開示の可能性および限界について、等)
⑭情報公開の方法・連絡先
⑮国の研究倫理指針や各機関の倫理審査委員会が求めるその他の事項
4.遺族等から書面により同意を取得した場合には、説明内容の記載を含む同意書の写しを遺族等に渡すこと。
5.遺族等から同意の撤回がなされた場合、未使用の部分の脳や試料については、基本的にブレインバンク側が遅滞なく火葬等の適切な処置を行う。本人・遺族に対する説明において、予め、ブレインバンクの方針として、撤回があった場合にはバンクで適切な処置(火葬等)を行うことを、伝えておくこととする。撤回の作業が終了した時点で、遺族等にその旨を伝えること。一連の作業を通じて、個人情報等の適切な管理に留意すること。
IV -2 生前情報の取得
1.組織等の提供を受ける際には、遺族等、主治医、医療機関等を通じて、提供者の氏名・生年月日および下記の生前情報を取得する。
年齢、性別、身長、体重、利き手などの一般情報、発達歴、教育歴、家族歴、生活歴、嗜好品、乱用物質、既往身体疾患、死因、死亡直前の精神的・身体的状況、病歴、臨床症状、検査結果、神経放射線画像、治療歴、感染症の病歴等
2.生前情報の取得は、遺族等、主治医からの聞き取り、医療機関に保管された診療録等の閲覧の方法により行う。
3.遺族等から生前情報の聞き取りを行う際には、遺族等の心情に十分に配慮する。
4.主治医、医療機関から生前情報の提供を受ける際には、情報の取得に関する遺族等の同意書を提示する。提供者が生前に提供意思を表示していた場合は、必要に応じ、提供者の登録申請書をあわせて提示する。
IV -3 摘出と保存
1.解剖と保存の場所についての規定(II-2、II-3)も参考にする。
2. 病理解剖の場合、剖検実施医療施設において定められた剖検承諾書を用いて、ご遺族による書面での同意を得ることが必要である。
IV -4 死体、組織の搬送
死体をブレインバンクがある施設まで搬送し解剖を行う際、および、死体解剖保存法および病理解剖指針により定められた者が、死体解剖保存法により定められた場所で解剖を行った後、組織を保管するためにブレインバンクに搬送する際は、公衆衛生上の感染防止対策を守り、研究目的に合致した状態を保つよう努力する。
IV -5 組織等の取扱い
a) 組織・試料の処理と保管
1.組織・試料の処理および保管の際は、神経病理診断を含めた形態病理診断を行った上で、組織・試料を研究目的に合致した状態に保つよう留意する。
2.組織・試料は匿名化された状態で処理、保管、管理する。
3.組織・試料は、可能な限り長期にわたり保管するよう努める。組織等の集積・供給に係る研究計画の審査を受ける際に、組織・試料の保管期間を明記する場合は、10年を目安とし、当該期間の経過後も保管を行う予定であることを記載する。
4.品質管理の徹底を図るため、組織の摘出、組織・試料の処理、保管に係る品質管理責任者を設置する。関係機関と連携の上、組織の摘出、組織・試料の保管に携わる技術者に対する教育・研修を定期的に行う。
5.当該機関において、組織・試料を保管・管理することが困難である場合または他の機関においてより適切な保管・管理が可能である場合には、組織等を他のブレインバンクに移管するなどの方法により組織・試料が有効に用いられるよう配慮する。移管の際は、提供者または遺族等の意思に反しないことを確認し、組織・試料の適切な保管・管理を担保するため、移管先との間でMTA(material transfer agreement)を締結する。
b) 情報の保管と管理
1.提供者に関する生前情報は、匿名化して保管する。
2.組織等の匿名化作業、匿名化作業にあたって作成した対応表の管理は、守秘義務を持つ個人情報管理者が責任をもって行う。
3.組織・試料を他のブレインバンクに移管する場合には、生前情報、対応表もあわせて移管する。移管の際は、生前情報、対応表の適切な保管・管理に関する事項をMTAに記載する。
c) 組織等の廃棄
1.組織・試料の劣化、組織等の管理上の問題等により、やむなく廃棄する場合には、ご遺体由来であること、感染の防止および個人情報等の漏洩に配慮し、施設の定める適切な方法で行う。
IV -6 試料の供給
1.試料の供給は、明文化された基準に基づき公正に実施する。
2.試料の供給を行う際は、供給先機関から研究計画の提出を受け、以下の事項の確認が必要である。
①試料がこころと身体の健康の向上に寄与する研究のために用いられること。
②研究計画に倫理的・科学的妥当性があることを、ブレインバンクの第三者を含む学術審査委員会等において確認すること。
③当該研究計画について供給先機関の倫理委員会等の承認が得られていること。
④死者の尊厳、個人情報等の保護等の観点から、組織等の取扱いが適正になされる見込みがあること。
⑤バイオハザードに対応した研究構築がされていること。
⑥供給先機関は利用実績を定期的に報告することが原則である。試料を使用する見込みがなくなった場合は、試料をブレインバンクに返却する。
⑦リソース使用希望者は、生前登録を含むブレインバンク活動に反する活動を行ってはならない。
3.試料の供給を行う際には、試料の適正な利用を担保するため、供給先機関との間でMTAを締結すること。MTAには必要に応じて第三者への譲渡を制限または禁止する等の内容を含むこと。
4.試料を供給する際、研究目的に合致した状態を保つよう留意する。また提供死者への畏敬とご遺族への礼意、公衆衛生的観点への配慮をする。
5.供給先、供給した試料の内容、提供者の臨床情報、解析結果に係る情報は、可能な限り長期に亘り保管すること。組織等の集積・試料の供給に係る研究計画の審査を受ける際に、これらの情報の保管期間を明記する場合は、10年を目安とし、当該期間の経過後も保管を行う予定であることを記載する。
6.ブレインバンクから提供された試料を用いた研究により発明がなされ、その発明を行った者がその発明について特許権等の知的財産権を取得しようとする時は、ブレインバンクの公共性と、篤志に基づく無償性の性格を考慮して、ブレインバンクとの協議を前提とする。
7.ブレインバンクから提供された試料を用いた研究期間の終了後、あるいは、研究者らが目的とする一定の研究成果をあげ発表を行った後、得られた情報をブレインバンクに提供し、ブレインバンク、および、ブレインバンクの利用者がその情報を2次利用できるようにすることが望ましい。
IV -7 ブレインバンクの運営体制
a) 設置、運営体制、監査
1.代表者を定め、公共性のある事業運営を行うのに適切な施設・設備・人員の体制を整備する。複数の機関あるいは機関内の部局が連携してブレインバンクを運営する場合には、一体的かつ責任ある運営が可能となるようとくに留意する。
2.設置の際は、設立趣意書、事業計画書、予算計画を書面で作成する等の方法で、運営の枠組を明確に定める。
3.設置について所属機関等の倫理委員会の承認を受け、運営にあたっては、倫理委員会等に対する定期的な報告を行うなど、第三者による監査を受ける体制を整える。
b) 運営体制
1.試料の供給を安全かつ迅速に行うための体制整備、教育・研修を行う。
2.個人情報等の管理を適切に行うための体制整備、教育・研修を行う。
3.運営の透明性を確保し、事業内容について広報に努める。
4.事業の継続性を担保するため、安定した財源の確保に努める。
5.品質保証と信頼性確保のための手順を明確にすること。
V ブレインバンク生前登録の手続
1.ブレインバンクを社会との調和の中で持続的に展開する観点から、生前登録システムの導入が推奨される。生前登録は、原則として、その主旨を理解した上で、自ら判断し同意する能力のある人を対象とする3。候補者に対し生前登録に関する説明を行う際には、任意性の確保に配慮し、説明を受けるかどうかを含めて候補者に拒絶する権利があること、拒絶することによって候補者が不利益を受けないことを明確に説明すること。自ら判断し同意する能力の有無についての判断を慎重に行うため、インフォームド・コンセント取得の過程には、原則として主治医以外のコーディネーター等が関わることとする。
2.生前登録の候補者から組織等の提供を行う意思の登録申請を受ける際には、下記の内容および事項について書面を用いて口頭で説明し、書面で申請を受けること
①ブレインバンクの意義と概要(連絡先を含む)
②提供意思ないし提供しない意思の登録は任意であり、登録するか否かによって、得られる治療上の利益が変わることはないこと。
③提供の際には遺族等の同意が必要であること。提供意思の登録があっても、遺族等の不同意や医学的な理由等によって提供が行われない場合があること。
④生前登録の撤回に関する事項
・候補者の申請に基づいてなされた意思登録は、いつでも撤回または変更できること。
・撤回、変更の方法
⑤生前登録の際の臨床情報の取得に関する事項
・提供意思の登録の際には、候補者、主治医、医療機関等から臨床情報の提供を受けること。
・提供を受ける情報の内容と取得の方法
⑥提供を受ける可能性のある組織の予定範囲、組織等の採取の方法とその取り扱い
⑦生前情報の取得に関する事項
・死後に、遺族等、主治医、医療機関等から臨床情報の提供を受けること。
・提供を受ける情報の内容と取得の方法
⑧組織等の取り扱いと廃棄に関する方針
⑨組織等の使用、供給および移管に関する方針
⑩予想される使用目的の例
⑪提供の無償性、組織等に係る財産的権利に関する事項
⑫供給先に関する方針(提供された組織が使われる研究は倫理審査を受け承認されたものであること、等)
⑬個人情報等の保護に関する事項
⑭組織等の解析により得られた情報の開示に関する方針(偶然に健康に関わる情報が得られた場合における開示の可能性および限界について、等)
⑮情報公開の方法・連絡先
3.提供意思の生前登録を受ける際には、候補者、主治医、医療機関等を通じて、候補者の氏名・生年月日・連絡先に加え、あらかじめ下記の臨床情報が死後必要となることのコンセンサスを得る努力を行う。
年齢、性別、身長、体重、利き手などの一般情報、発達歴、教育歴、家族歴、生活歴、嗜好品、乱用物質、既往身体疾患、死因、死亡直前の精神的・身体的状況、病歴、臨床症状、検査結果、神経放射線画像、治療歴、感染症の病歴等
VI 見直し
ブレインバンクの整備、運営に関しては、当事者、家族、医療福祉関係者を含む社会全体、病理学、神経病理学、解剖学、法医学、臨床精神医学、神経内科学、神経科学などの学術領域と認識を共有し、信頼、連携を深めていくことが重要であり、今後、倫理指針に関しても、関係各領域と検討を重ね、必要に応じて改訂を行う。必要に応じ、又は施行後5年を目途としてその全般に関して検討を加えた上で、見直しを行うものとする。
VII 用語の定義
遺族等:このガイドラインにおける遺族の定義、および遺族の範囲の解釈については、「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)(平成9年10月8日制定、平成24年5月1日一部改正版)に示された親族の定義を参考にしつつ、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年12月22日告示)および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針ガイダンス」(平成27年3月31日改訂)をも参考にして、各機関の倫理審査委員会が総合的に判断する。
組織:試料として研究者に供給するための加工・調整を経る前段階のもの。ブレインバンクの性質上、主として脳組織を示すが、研究用途に応じて他の臓器や脊髄、髄液、体液、末梢臓器等が広く含まれうる。
試料:ブレインバンクから具体的な研究計画に応じて研究者に供給され、使用されるもの。一般的には、組織の一部を切除・抽出したり、固定したりするなど、個々の研究用途に応じて加工・調整がなされ、使用段階にあるものを指す。
注釈
注1「Gift of Hope」は多くの国でブレインバンクの趣旨を示す標語として用いられている。
注2 文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム「精神・神経疾患克服のための研究資源(リサーチリソース)の確保を目指した脳基盤の整備に関する研究」法倫理委員会検討結果。
注3 本ガイドラインは、患者本人(又は判断能力に応じて意思決定を代行する者)の理解と協力のもと、各機関における倫理委員会の承認と監督を受けて行われる、生前の段階からの症例収集と登録を制約するものではない。この場合でも、解剖や組織・試料の取扱いは遺族等の同意を前提とする。
VIII 施行期日
本指針は、2015年9月26日から施行する。(2016年2月5日日本病理学会に微小な字句修正の指摘後承認された。)